当該物件の現状と課題
まず自主管理マンションですが、総会の出席率が低く、出席者も固定化し、役員の成り手不足の状態です。
平成13年に大規模修繕工事を実施しているんですが、それ以降、大規模修繕工事は行われていません。いわゆる事後保全という形で何か問題が起きたら手当てしていくという形で補修していた、という状況であります。
建物は旧耐震基準で、平成24年に一次診断を実施し、結果は耐震不足でした。そのため、二次診断を実施の上、耐震改修工事を実施していく必要があります。
長期修繕計画は分譲当初からなく、今回の大規模修繕工事や耐震改修工事等の計画を実施するためにも長期修繕計画の策定は必須であります。
あとは用途地域の変更があり、商業地域(容積率制限なし、建ぺい率70%)から近隣商業地域(容積率300%、建ぺい率80%)への変更に伴い、現状の容積率(約470%)は既存不適格となってしまっています。
このため、建て替えは現実的ではないということで選択肢から排除しているので、きちんと維持管理して長寿命化を図っている必要があります。
課題に対するこれまでの取り組み
令和3年、川崎市がマンション管理適正化推進計画を策定し、管理組合に接触、ヒアリング等を行っています。
この川崎市の計画に基づき、要改善マンション(管理上の問題があり、「助言・指導・勧告を行う判断基準の目安」に該当するマンション)支援として、いわゆるアウトリーチ型のアドバイザー派遣を受けることになりました。
この川崎市アドバイザーからの助言を踏まえて、令和5年7月に耐震診断の二次診断に着手しまして、併せて長期修繕計画の策定に向けて勉強会や情報収集等をはじめます。
令和6年2月、川崎市が理事会に「マンションストック長寿命化等モデル事業」の説明を行い、管理組合として申請を目指すことを確認します。
翌月、管理組合、川崎市、我々全建センターの3者でマンションストック長寿命化等モデル事業を目指すためのキックオフミミーティングを実施しまして、ここからプロジェクトがスタートしていくことになります。
本事業における提案の概要
事業をはじめるにあたり、まず建物劣化状況調査を行いました。
耐震と各設備(給排水衛生設備・機械設備・消防設備・電気設備・昇降機設備・ガス設備等)の一次・二次調査診断です。
建物の劣化状況や耐震診断結果等を踏まえ、部位ごとに修繕・修復・検討するなど、マンションの状況に応じて将来の維持管理コストの圧縮を図ることも考慮した長期修繕計画を策定しました。
今回は修繕積立金の大幅な増額が必須となり、その合意形成につきましては困難を極めました。最終的に総会決議が取れましたが、理事長はじめ役員様方の献身的なご対応があり、住民説明会を2度開催して何とか値上げに成功しました。
それからは、速やかに大規模修繕工事を実施する必要があります。現在は目標時期として、2026年内の工事竣工を目指すということで、やっております。
納品した成果物
建築部門一次調査診断報告書(①-2)
意匠的な建築は一次診断でとどめました。外装、防水など一般的な調査をしました。結果は大規模修繕工事を23年も行っていないので、結果は非常に悪かったです。
設備部門二次調査診断報告書(②-2
給排水設備は二次診断も行いまして、幸い排水管は耐火二層管を使用しておりましたので、計画修繕の必要はないという判断でした。
給水管は白ガス管なので、必ず更新の必要がありますが、水漏れ事故が起きていません。資金的にかなり切迫した状況になっているので、長期修繕計画では2035年に実施予定としました。
長期修繕計画書(③-2)
納入した長期修繕計画書ですが、修繕積立金の残高について、今年から来年にかけて計画する大規模修繕工事が、まずできませせん。資金がないので、ここはもう、住宅支援金融機構から借入を行うことで解決させますが、ここで借入を行ったとしても、後に出てくる耐震改修や、給排水設備など工事はどんどん続いていきますので、現状の修繕積立金で賄えるわけがないということがわかります。
私どもが提案した修繕積立金の値上げ案ですが、現在は㎡当たり208円。2026年から430円に上げてはどうでしょうかということで提案させていただきました。
多少マイナスになる年度もあるのですが、最終的には黒字に転じますし、この辺が現実的なところじゃないのかなという提案です。
まとめ及び本日までの進捗状況
建築調査診断につきましては、とにかく劣化状況が悪いということがわかりましたので、大規模修繕工事に即時着手することが決定しています。
設備配管に関しては後ろに回す。耐震工事も後回しにするという形で、まずは大規模修繕工事を行うということで合意をいたしました。
長期修繕計画についてですが、430円の値上げについて理事会で検討したところ、あまり現実的ではないということで、段階的に値上げをしていくことで決まりました。
なので、今回2026年からは360円とすることが5月の通常総会で確定しました。
現在の進捗状況は、大規模修繕工事の設計を終え、競争入札による業者選定を実施し、先月施工業者との契約が済みまして、これから着工に向かう流れとなっております。

大規模修繕工事新聞 2025-11月 191号








