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第78回管理組合オンライン・セミナー採録Part.2

 認知症問題にマンション管理組合はどのように向き合うべきか
講師 全建センター筆頭理事・佐藤成幸氏(マンション管理士)
//zenken-center.com/78sm


1.マンション居住者の「老い」の実情
 国土交通省のマンション総合調査によりますと、「世帯主の年齢」は60歳代、70歳以上の割合が増加する一方、40歳以下の割合が減少している事実があります。
 さらに完成年次が古いほど、70歳以上の割合が大きく、昭和59年以前のマンションにおける70歳以上の割合は55.9%となっています。
 「トラブルの発生状況」についてみてみると、完成年次が古いマンションほど管理費等の滞納のある割合が大きくなる傾向がある。さらに「管理組合運営に関わる将来への不安」ということになると、「区分所有者の高齢化」が57.6 %と最も多く、次いで 「居住者の高齢化」 46.1 %、「修繕積立金の不足」 39.6 %という数字となっています。
 厚生労働省より、認知症についての説明が分かりやすくありましたので、参照させていただきます。


 我が国では高齢化の進展とともに、認知症と診断される人も増加しています。65歳以上の高齢者を対象にした令和4年度(2022年度)の調査の推計では、認知症の人の割合は約12%、認知症の前段階と考えられている軽度認知障害(MCI)の人の割合は約16%とされ、両方を合わせると、3人に1人が認知機能にかかわる症状があることになります。

  すなわち、これは他人事ではなくて自分事であるとこうして捉えるべきでありまして、マンション管理組合においても、まずは意識改革からはじめ、何らかの取り組みが必要な時期に来ているのではないかと、重要な点として提言したいと思います。

※厚生労働省「認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」から政府広報室作成資料より

2.ケーススタディ
 ※以下は日本認知症官民協議会/認知症バリアフリーWG/マンション管理組合の取組むべマンション管理会社における『認知症』の接遇をめぐる現状と課題及び課題の整理/(2019/10/23)ナイスコミュニティー株式会社の講演資料より一部抜粋引用
・○階のおばあちゃんが、エントランスに座り込んでいることがあり、鍵を持たずに出て、オートロックを開けられない様子(居住者からの通報)。声をかけたところ、「デイサービスが迎えに来るはずなのに来ない」というが、早朝6時前のことで、徘徊なのではないか?
・認知症の家族が外出したままかえって来ないので、マンションに設置している防犯カメラの映像を確認したい。
・認知症の独居老人が仏壇に線香を上げたまま外出し、座布団に引火。警報機が鳴動しボヤで収まる。
・集合郵便受けの開錠番号を忘れた。
『“点検”と言って人が来たので招きいれた(訪問販売の無用な契約や窃盗被害の可能性)。
・ 「親族が勝手にものを持っていく」といって聞かない。
・ 「鍵をなくしたので、鍵を交換したい」。思い込みで何度も無用な交換をしてしまう。
・自宅ではない住戸の扉をドアをたたきながら、「開けろ!」と暴れていた。
・隣戸の高齢男性が「うるさい!」と怒鳴り込んでくる(心当たりなし)。
・ルールを守らないごみ出しがあり、目撃した方から認知症の居住者が出したものとの連絡がある。
・管理費等が滞り、連絡を取ったところ、本人や親族から認知症であると告げられる。
・輪番制で管理組合役員を決めているマンションにおいて、番が廻ってきた際に、認知症気味のため引き受けられないとの申し出を受ける。

 私が実際に体験してことでは、大規模修繕工事をしていた現場で、空き巣に遭ったと警察沙汰になったことがありました。
 曰く「工事関係者が疑わしいんじゃないか」ということで事情聴取も受けたわけですけれども、被害に遭ったと言われるご高齢の方の話の辻褄がだんだん合わなくなってきた。
どういうことかというと、戸棚にしまっていた誰々さんのお葬式で集めた香典がそっくりなくなったというわけですが、ご家族の方が来られて、そもそもそんな香典など置いていなかったということがわかりました。
 当時、工事の現場を預かる立場として、作業員全員の名簿の提出ですとか、事情聴取なんかを受けて大変騒がしかったといった経験がありました。

3.マンション管理組合の取り組むべき事とは


(1)まずは認知症について正しく知る
 認知症は何もできない人、かわいそうな人、トラブルを起こす面倒な人だなど、聞きかじりや偏見、先入観で判断してはダメだということです。
 認知症にも様々な種類があります。厚生労働省の報告によると、アルツハイマー型の認知症というのが全体の67.6%、血管性認知症19.5%、レビー小体型認知症4.3%となっています。


 レビー小体型認知症は割合が少ないものの、幻覚や幻聴など、周りから見ると、非常に異常な行動を取っているかのように見えたりする場合があるんですが、本人においては、そこにちゃんと、例えば人がいるように見える、声が聞こえる、ということがあるようです。
 アルツハイマー型の認知症とは違うこともある。まず正しく認識するというのは一応大事かな、と考えております。


(2)入居者名簿の整備
万一に備えて、世帯主、同居人など現に居住する方々の名簿と連絡先を整備しておく。ご自身のお名前や部屋番号が言えないということも含めて、まず「一体誰か」ということを管理組合としても先に把握する必要があるわけです。
入居者を含めた方の名簿連絡先(緊急連絡先も含め)を整備して、常にそれを確認できるようにしておくことが必要です。
そして新しい連絡先、緊急連絡先、新しい入居者の方々の名簿、これをアップデートしたものを置いておくことも必要かと考えております。


(3)政府や自治体の取組みについて把握する
 2024年1月、認知症基本法(共生社会の実現を推進するための認知症基本法)が施行され、政府では認知症に関する施策を進めています。
 基本計画を取りまとめた上で基礎自治体である市町村に、実際の医療や介護サービスなどのサポート体制を整えていくわけです。
管理組合において何ができるか、どこまでやるか、プライバシー保護とのバランスも大変難しいわけですが、こうした基本法をはじめとして、社会としての受け皿、システムがあるわけです。ですから、お住まいの地域で、どのようなサポートメニューが取りそろえられているのか、現実的に把握しておくということが非常に大事になってまいります。


(4)できることの限界を把握する
 管理組合としてできることの限界を把握しておくということも非常に大事になります。
 管理組合としてどこまで関わるのかあらかじめ決めておくということ、どこまで関わるのか、何をして何をやらないのかあらかじめ決めておく。ルール化しておくということが重要です。
 管理組合はここまでやるんですよ、逆に言えば、ここから先はやらないんですよ。ここから先はどうするかというと、地域、行政機関、介護福祉機関、医療機関などにお任せする。

 要するに社会全体との連携を図る、管理組合だけで問題を抱えてはいけませんよということを、私としてはお訴えをさせていただきたいと思います。
 認知症トラブルがご自身の管理組合で起こった場合、慌てたりパニックになったり、それから一番やってはいけない、例えば排除をするとか、そういったことにならずに、一緒に暮らしていくにはどうしたらいいのか、さらに管理組合でできることはどこまでか、そして親族の方とお話しする以外の方法もあるし、行政の機関等との連携もあるんだということを、最後にお伝えをさせていただきます。
 以上をもちまして、私のお話を終わらせていただきます。

※厚生労働省「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能への障害への対応」(平成25年5月報告)より

大規模修繕工事新聞 2026年1月 193号