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『談合問題を受けて―いまさら聞けない大規模修繕工事の発注方式について―』

オンライン・セミナー第1部の抜粋・採録です。今回は、『談合問題を受けて―いまさら聞けない大規模修繕工事の発注方式について―』をテーマに、一般社団法人全国建物調査診断センター所属・矢口直也氏(アバター理事)による講演の様子を紹介します。


 2026年9月28日、公正取引委員会が関東地区のマンション大規模修繕工事をめぐる談合について排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。
 本日は今さら聞けない大規模修繕工事の発注方式についてと題して、よく耳にする設計・監理方式と責任施工方式とは何なのか、そして管理組合が騙されない発注をするために何をすればよいのかを緊急配信セミナーと題し、基礎からお話しします。


1.談合事件の概要
 9月28日、公正取引委員会は、関東地区の1都6県で、マンション管理組合が発注した大規模修繕工事について、独占禁止法第3条「不当な取引制限の禁止」に違反する行為があったと認定しました。違反が認定されたのは、設計コンサル業者2社、施工業者40社です。対象となった工事は171件、その受注額の合計は約310億円に上ります。
 注目は、施工業者だけでなく、管理組合から業務を受けていた設計コンサル業者が違反の当事者として認定されている点です。


2.違反行為の構図
 まず、管理組合は大規模修繕工事を進めるために設計コンサル業者に業務を委託します。建物の調査診断や設計施工業者の選定のお手伝いをしてもらうためです。
 本来、このコンサルタントは管理組合の味方のはずです。
 ところが設計コンサル業者は業務の中で知った設計予算、つまり管理組合が決めた発注予定金額などの情報を特定の施工業者に提供していました。そしてその施工業者を受注予定者とするという関係ができていました。

 受注予定者はコンサルと協議するなどして、各社の見積価格を決めます。他の施工業者は、受注予定者から連絡された価格で見積もりを出したり、参加を辞退したりして協力していました。
 こうして受注予定者が工事を受注します。そして受注した施工業者は、契約金額の一定割合を手数料として設計コンサル業者に支払っていました。報道によれば、その目安は契約額の5%とされています。
 つまり、管理組合から見ると、複数の会社から見積もりを取って、一番良いところを選んだつもりでも、実際には受注する会社が事前に決まっていたということです。

 

3.抑えておきたい2つのポイント
 本日のお話の前提として、2つのポイントを抑えておいてください。
(1)設計・監理方式そのものが悪いのではない
この後、詳しく説明しますが、設計・監理方式は本来、設計する人と工事する人を分けてチェックが働くようにした仕組みです。
今回問題になったのは、本来中立であるべき設計コンサルタントが施工業者側と通じていたことで、チェック機能が働かないどころか、逆に談合の道具に使われてしまいました。大切なのは方式の名前ではなく、誰が何をどこまでチェックするのかを管理組合が把握しておくことです。
(2)課徴金は管理組合に返金されない
課徴金は国に納める行政上の措置であって、被害にあった管理組合へのお金の返還ではありません。
もし工事費を余分に支払ったとして、その分を取り戻したいということであれば、課徴金とは別に損害賠償請求などを検討する必要があります。

4.設計・監理方式と責任施工方式の比較
 第三者チェックは設計・監理方式は構造上働きますが、それはコンサルが中立であることが前提です。
 責任施工方式は第三者チェックが働きにくいので、第三者へのスポット依頼などで補う必要があります。
 価格の比較は設計・監理方式は共通の仕様で比べられますが、責任施工方式は会社ごとに仕様が異なるので、比較ができません。
 費用的には、設計・監理方式はコンサル費用(設計費、工事監理費)が別に必要。責任施工方式は施工業者の責任において実施するため、工事費に含まれているという考え方となります。
注目していただきたいのは、主なリスクの業です。
 設計・監理方式のリスクは、設計コンサルトと施工業者との癒着、施工業者間の談合。責任施工方式のリスクは、過剰な工事割高な価格、品質の自己判断です。
どちらにもリスクがあるわけです。
ここで強調したいのは、設計・監理方式を選べば安心ではないということです。

5,方式の優劣よりチェックの仕組み
 大切なのは方式の優劣ではなく、チェックの仕組みです。
 どの方式を選んでも、管理組合が主体となって組み込んでいただきたい4つの柱があります。
(1)情報の管理
設計予算など、施工業者に見せてはいけない情報の取り扱いルールを決めることです。
(2)競争の確保
見積もり合わせが形だけにならないよう、複数の会社が本当に競争する状態を作ることです。
(3)利害関係の確認
設計コンサルタントと施工業者の間に癒着がないかを書面で確認することです。
(4)第三者の目
 利害関係のない専門家に客観的に確認してもらうことです。


6.不適切コンサルタントの6つの警戒サイン
 設計コンサルタントの不適切な業務については、国土交通省が平成29年にも管理組合向けに注意喚起をしていました。今回、公正取引委員会の法的措置に至ったことで問題が改めて浮き彫りになったといえます。
 業界で一般に注意すべきとされている6つのサインをご紹介します。
(1)コンサル費用が相場より著しく安い
 業務料に見合わない安さの裏には、施工業者からの手数料、いわゆるバックマージンで利益を得る前提があるかもしれません。
(2)施工業者の公募条件が厳しすぎる
  特殊資本金や実績件数などの条件で特定の業者しか応募できないように絞り込んでいる可能性があります。
(3)見積金額が各社で近い、あるいは設計予算にぴったり
 設計予算の情報が漏れている可能性があります。
(4)見積に参加する業者がいつも同じ顔ぶれ
(5)設計コンサルタントが特定の業者を強く押す
(6)選定過程の資料。例えば応募業者の数や辞退した理由・評価の内容などを見せたがらない。


7.設計予算の扱いと手数料等
(1)設計予算の扱い
 設計予算とは、管理組合が決める発注予定金額のことです。これは施工業者に知られてはならない最重要情報です。
 この情報が漏れると、各社が予算ギリギリの金額で見積もりを出せてしまい、競争が働かなくなります。理事会や修繕委員会でこの情報をどう扱うかを方針として決め、議事録や資料の配付範囲を限定しておくことが大切です。
(2)手数料等
 公正取引委員会は、施工業者から設計コンサルタントに手数料が支払われていたことを確認しています。報道によれば、その目安は契約額の5%です。
 管理組合としてはコンサルタントと施工業者の双方に、互いの間に金銭のやり取りがないことを制約書などの書面で確認することをお勧めします。


8.管理組合が今日からできる対策チェックリスト
A.コンサルタントや業者を選ぶとき、複数の会社から提案と見積もりを取って比べる。
 コンサルと施工業者の間に資本関係、人的関係、手数料のやり取りがないことを制約書で確認する。担当者の資格や体制、管理の頻度を契約書に明記する。
B.施工業者を選ぶとき、公募の条件が必要以上に厳しくないか管理組合自身も確認する。そして最重要なのが設計予算を外部に出さないこと、また応募した業者、金額、事態理由を一覧で見せてもらい、ヒアリングには理事や委員が直接参加する。
C.工事中・工事後、管理報告つまり写真や検査記録を定期的に受け取る。追加工事や変更工事は、根拠と金額を確認した上で承認する竣工書類・保証書・アフター点検の予定を受け取って保管する。
D.迷った時・疑わしい時、国土交通省や自治体関係団体の相談窓口を確認する中立的な第三者、例えば建築士、マンション管理士、弁護士などにセカンドオピニオンを求める。

9.本日のまとめ

(1)設計・監理方式は、設計と施工を分けて透明性を確保する方式です。ただし、設計コンサルタントの中立性が大前提です。
(2)責任施工方式は一社にまとめて任せ責任を一元化する方式です。ただし、第三者のチェックと価格の比較を工夫で補う必要があります。
(3)今回の談合は、設計予算の漏洩と施工業者から設計コンサルタントへの手数料が結びついた構造でした。
(4)最大の防御策は、方式の優劣ではなく、管理組合が主体となってチェックの仕組みを組み込むことです。
 大規模修繕工事は、皆様が長年積み立ててきた大切な修繕積立金を使う事業です。
 人任せにせず、ポイントを抑えて管理組合が発注の当事者として進めていきましょう。
 特に、関連会社への発注など利益相反の有無を確認し、調査診断や竣工検査などの要所で第三者の目を入れることを検討してください。
 本日はご清聴いただき、誠にありがとうございました。

 

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大規模修繕工事新聞 2026年11月 203号


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