協力金請求事件
不在区分所有者への協力金請求は、妥当
2010.1.26 最高裁
自ら専有部分に居住しない区分所有者に対し、管理組合が管理規約を変更して条文化した「住民活動協力金(戸当たり月額2,500円)」の支払いを求めていた件で最高裁第三小法廷は1月26日、「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす」などと規約変更の無効という不在区分所有者の主張を認めた控訴を棄却し、「規約変更の無効をいう主張には理由がないことは明らか」として管理組合による住民活動協力金の請求を認めた。
下記に事件概要と最高裁の判断を整理してみた。
事件概要
○当該物件は大阪市内・昭和40年竣工・4棟868戸
○ 組合費は一律1万7,500円(管理費8,500円、修繕積立金9,000円)
○ 役員は規約上の選挙規定により、本件マンションの居住者から選任されるものとしている
○ 分譲後20年過ぎから賃貸住戸等が増加、平成16年ころには約170戸が不在区分所有者の住戸となり、役員に就任しないなど管理に協力しないことへの不満が出るようになった
○ 平成16年総会で、不在区分所有者に対し、1戸当たり5,000円の協力金の負担を条文化した管理規約等の変更を可決した
○ 総会後、不在区分所有者が所有する181戸のうち、17戸分の支払いが拒否された
○ 管理組合は支払い拒否の不在区分所有者に対し、順次支払いを求める訴訟を提起したところ、裁判所から協力金の額を2,500円にする和解案が出された
○ 平成19年総会で、協力金を「住民活動協力金」として2,500円の計上、役員の活動経費と報酬の支払いを条文化した管理規約等の変更を可決した
○ 5人の不在区分所有者(専有部分数12戸)が和解案を拒否した
大阪高裁(控訴審)の判断
▽ 規約変更では、不在区分所有者に住民活動協力金として月額2,500円の支払義務を課すとともに、役員報酬や必要経費の支給も認めることにしたものであり、そうすると、役員の不公平感は報酬の支給により補てんされるということができる
▽ 不在区分所有者であるがために避けられない通信費等の出費相当額程度を組合費に加算して負担させればよく、役員の報酬や必要経費の財源として住民活動協力金を設けて負担させるべき合理的な根拠は認められない
▽ したがって、規約変更は区分所有法第31条「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす」に該当する最高裁の判断
◇ 本件マンションは規模が大きく、保守管理、良好な住環境の維持には各区分所有者の協力が必要不可欠であるにもかかわらず、総戸数868戸中約170戸ないし180戸が不在区分所有者の所有する住戸であり、規程上役員になることができない
◇ 不在区分所有者は役員になる義務を免れているだけでなく、日常的な労務の提供などの貢献をしない一方で、居住する区分所有者は本件マンションの保守管理、良好な住環境の維持を図っており、不在区分所有者はその利益のみを享受している
◇ 一定の金銭的負担によって居住区分所有者と不在区分所有者の間の不公平を是正しようとしたことには、必要性と合理性が認められる
◇ 本件規約の変更によって不在区分所有者が受ける不利益は、住戸当たり月額2,500円であり、居住区分所有者が負担する組合費1万7,500円の約15%増しの2万円にすぎない
◇ 住民活動協力金の趣旨に反対して支払いを拒否しているのは、不在区分所有者が所有する約180戸のうち12戸を所有する5人にすぎないことから、協力金の額も含め、規約変更が受忍限度を超えるとまでは言えず、区分所有法第31条「一部の区分所有者の権利に特別の影響をおよぼすべきとき」に該当しない
非協力者が増加傾向の現状
判決は大いに評価できる
本件は、管理組合の役員のなり手がなくなった昨今の事情に対し、これを防止するため、協力金を上乗せすることで役員の人材と報酬の財源確保を間接的な形とはいえ同時に徴収できる画期的な判決として、大いに評価できるといえるでしょう。
本件の被告は不在区分所有者であったが、このような判例の考え方をさらに前進させると、在住区分所有者であっても、およそ隣り近所の居住者の名前も知らない都会型の所有者や高齢化して役員を引き受けない所有者など、勢い管理組合の運営には全く関心を示さない非協力者が増えている昨今では、居住区分所有者と言っても不在区分所有者と何ら変わらないと言って過言ではない。
そうなると、居住所有者でも不在所有者と同視できる人にも管理費の増額を認めてよいか、居住所有者にも適用するか、また上乗せ額の割合(判例では15%)をどの程度まで引き上げることができるのか等が、今後の争点となってくるのではないだろうか。
なお、国交省がすすめる「管理者管理方式」について、国交省は管理費や修繕積立金の負担義務や使い方などを定める管理規約の見本を示して管理者が主体的に管理するよう指導しているが、本判例が出た以上、一歩進めて、不在所有者に対する協力金規定を定めるべく行政指導をすべきではないかと思われる。
(大規模修繕工事新聞 第04号)